シリーズ<叫び>エピソード3「ヒモ」〜第5話〜
<第5話>
ジンさんは2年前に養ってもらっていた彼女と別れて以来、3つのバイトを掛け持ちしてなんとかバンド活動を維持している。
「あ、はい、今ちょうど」
『じゃあ悪いけど、迎えにきてもらえるかなぁ? 啓太、この通りでさ。もう3回も吐いちゃってんの、見事に全身ゲロまみれ。場所いつもんとこね』
「すみません、本当にすみません、マジですみません、このお詫びはいつか必ず……」
『お詫びとかいいから。むしろすぐ来てほしいかも』
「すぐ行きます」
おそらく啓太にゲロをかけられたであろうジンさんに申し訳が立たず、見えないとわかっていて電話口にペコペコ頭を下げてしまう。
電話を終えてソク待機室に戻り、ワンピースを脱いだ。
女の子ばかりの空間といってもみんな嗜みはあるので、着替える時はトイレを使うのが一般的なのだが、今はそんなこと言ってられない。だって緊急事態。
「ちょっと失礼」
「きゃー秋穂さんセクシー! 下着、赤のサテンー!!」
深刻な悩み相談の反動か、やたらハイになっているユナが声を上げる。
「何なに、急いでんの? 今から彼氏と? いいなぁ、彼氏持ちは」
「ミュージシャン志望のオトコと同棲中だっけ。そういうのって、いいよねぇ」
なんて目を細めるいずみと香織に、
「いやぜんっぜん良くないってば。家賃だって、生活費だって、スタジオ代だって、ぜぇーんぶあたし持ちなんだっての!!」
……と鬱憤をぶちまけそうになるのを寸前で押しとどめ、笑顔でお疲れ様ーと待機室を出る。そのまま、事務所で精算。120分指名、90分指名、90分新規で、今日の稼ぎは38000円。
生活がかかってるから真剣にやってるし、指名だってランキング5位以内を常にキープしているが、これだけ稼いでも自分のために使えるお金はほとんど残らない。
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