シリーズ<叫び>エピソード3「ヒモ」〜第9話〜
<第9話>
既に時計の針は6時を回っていた。
12月の朝だから、まだカーテンの外はしっかりと暗い。じきに空が白んでくる頃、昼夜逆転した現実を思い知らされるのが嫌で5センチだけ開いたカーテンをきっちり閉めようとすると、右手に啓太が自分の手を重ねてきた。チビの上未だに年齢確認が必要な童顔だけど、ギターを弾くせいか指は逞しく太く、そこだけはセクシーなのだ。
「寝る前に一度だけ、したい」
「はっ何言ってんの、また吐くよ」
「でもする」
「ちょ、啓太……」
部屋着替わりのヨレヨレのトレーナーをまくり上げ、ノーブラの胸に顔を埋めてくる。思わず下半身に疼くものを覚えた矢先、啓太の動きは止まった。
なんて幸せなやつ。Dカップに挟まれたまま眠ってしまうなんて。
「バカ啓太」
さっき手づから乾かしてやった柔らかい髪を指で絡ませ、呟いた。
啓太に中途半端に刺激されたせいでムラムラしている上、何やら無性に虚しいわ切ないわで、疲れているのに寝れない。身体の疲労とは真逆に妙に覚めた頭で、ここ3年のことを考える。
啓太と出会ったのは新宿のライブハウスだった。真面目な派遣OLで音楽はごくメジャーなものしか聴かない、マイナーなロックバンドのライブなんてまったく興味ないあたしがなぜそのライブハウスに足を運んだかというと、短大時代からの親友の美嘉に、
「ごめん、一緒に行くはずの子がインフルになっちゃってさぁ。今日だけ付き合って、お願い!!」
と半ば強引に誘われたからだ。
美嘉は大のロックファンで、そのライブも啓太たちの後に出演する、近年飛ぶ鳥を落とす勢いの人気バンドが目当てだったらしい。そのバンドはあたしと啓太が付き合ってまもなくメジャーデビューし、今や紅白出演も果たすまでに成長した。
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