Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第3話>
<第3話>
そう、あたしは頭が悪い上、プライドも高い。
バカにされた時、必要以上に腹が立つ。
こんな仕事をしているくせに? いやむしろ、こんな仕事をしているから、なのかもしれない。
どっちにしろ、と富樫さんがひとつ咳払いして言った。右手からタバコの煙が白く上がっている。
「どっちにしろ、うちじゃもう無理なんだ」
「無理って。そんなのないよ、なんとかしてよ」
「俺にはどれも。俺の立場はただの雇われ店長、サラリーマンも同然なんだ。上からの指示に従うしかない」
「何よ、カス」
すっぽんぽんのままベッドから這い出し、けだるそうに横たわる富樫さんを見下ろして、言葉を投げつけた。一度堰を切ってしまえば後は止まらず、ボキャブラリィの少ない脳から悪口が次々飛び出す
「カス、バカ、うすのろ、役立たず、サイッテー」
言葉だけじゃ足らなくなって、クッションにぬいぐるみにティッシュ箱、目についたあらゆるものを投げてやった。壊れたら困るものや後処理が大変なものは意識的に避けて。
こんなに頭がじんじん熱くて、お腹の中は黒いものがぐるぐるしているのに、どこかで冷静だ。いっそ完全に感情に飲み込まれてしまえば楽になれそうだけど、そうもいかない。だから苦しい。
富樫さんはやめろよと止めたり、叱ったりしなかった。ただ静かにベッドから這い出して、フローリングに転がった服を身につけ、素っ裸で暴れるあたしを哀れむように見下ろして、
「仕事行く」
と言っただけだった。罵詈雑言を浴びせて引き止めても、行ってしまう。
「頭を冷やせ」という一言と共にドアが閉まった。遠ざかっていく足音を追う気力もなく、あたしは立ち尽くしていた。食器棚のガラスにだらしなく太った裸の女が映っていた。
テーブルの上にはローソクを立てたケーキの残骸と、富樫さんが買ってきたローストビーフとチーズの食べ残し、そして気の抜けたシャンパンのグラスが放置されている。せっかく、二人きりの甘いバースデーパーティーだったのに。
23歳は、こうして最悪の形で幕を開けた。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。