フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第9話>
<9回目>
「だって、このままここにいても自分がしんどくなるだけでしょ。お金の問題で辞められないんだろうけど。ただ、あんな感じで仕事されても、一緒に働くあたしたちが迷惑なわけ。どうせあの調子じゃろくな接客しないだろーし。となると、うちの店全体の質が落ちたってお客さんは思うわけよ。可愛くないなら可愛くないで、頑張って仕事してほしいよね。人に迷惑だけはかけるなって話」
「さすがナンバーワン、言うことが厳しいですね」
ちょうど信号待ちだったので冨永さんが振り返った。やたら笑顔。
この人もあたしと同じでこの業界長いんだろう。風俗のいい部分も悪い部分も知っていて、だからこそプライドを持って仕事する女は無条件で応援しようと思ってくれている。そう感じる。
「全然厳しくないよ。あたしは仕事舐めてる女が嫌いなだけ。お仕事なんだから、一生懸命やるのは当たり前でしょ」
「俺も一生懸命やってますよ、お仕事ですから。西口で他のドライバーさんには負けません」
「えらいえらい」
「流してますね」
「流してる」
「もうつきます」
道の端でワゴンが止まり、小さくて小奇麗なラブホテルから伊織が出てくる。
ショップ店員として働いてるお店の新作なんだろう、ベージュのジャケットをぱりっと恰好よく着こなし、タックの入ったチャコールグレーのパンツと合わせている。
この仕事ではお客さん受けを考えてスカートを履くのが基本だけど、伊織はパンツスタイルがよく似合う。
「久しぶりー」
「久しぶりー! いいなぁ、そのジャケット、格好いい」
「うちの新作だよ」
「やっぱり」
「でも、レナはどっちかっていうとうちじゃないよね。系列ブランドで25歳前後の女の子がターゲットの、もうちょっと可愛い系のとこがあるんだけど、そこのが似合いそう」
「すいません、盛り上がってるところ悪いですが、二人ともお釣り確認して下さい」
遠慮がちに二つのお釣り袋を差し出す冨永さんから、ごめんねーと笑って袋を受け取り、二人でお札を数える。お釣りは常に一万円分もらう。
ドリームガールでは、お客さんから直接女の子がお金を受け取り、後でドライバーさんに渡すシステムなので、細かい作業だけど、この過程は重要だ。
少なくもらってるのに、うっかり気付かず、そのまま仕事に行ってしまったら、最初にもらったお釣りが少なかったのか、女の子がお客さんからお金を少なくもらってきたのか、わからなくなってしまう。
「二人とも、ちゃんとありますか」
「ありまーす」
「じゃ、向かいます。池袋のレンタルルームで、二人連れのお客様です」
「なんか冨永さん、引率の先生みたい」
なんでですか、と冨永さんが笑う。伊織も何それーとくすくす笑い出す。
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