フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第20話>
<20回目>
そんなことまでだらだら話してしまって、ひと息ついた。
その瞬間、この時間が仕事だということを思い出し、ちょっと後悔していると、ヒラノさんの丸い瞳が暗く細まって遠くを見つめていた。
「ひどいですね」
そう言った後、彼は話し始めた。
「俺もいじめられてたんです、レナさんと同じで中学の頃」
「えっ、嘘? 意外。全然そんなふうに見えない」
「よくある話ですよ、いじめられてた友だちを庇ったら、矛先が庇ったほうに向かうってやつ。結構ひどかったですね。男子だから暴力もあったし、ヤンキーにカツアゲされたりとかも」
「……最低」
「最低なのは俺です。結局それで中二の二学期に転校したんだけど、転校先でもやっぱりいじめられてる奴がいて……。でも俺、もう庇えなかった。なんとかしなきゃとは思っていたけど、自分が一番で自分が大好きな奴になっていた。助けたいって気持ちよりいじめられる怖さが勝った。ごめんなさい。なんでこんな話しちゃったんだろう」
「桜介くんは悪くないよ」
過去に向けられた桜介くんの瞳に語りかける。
平野桜介くん。
フルネームを教えてもらってからは、そう呼ぶようにしていた。
名刺を渡して自分の名前は教えるのに、あたしの本名は聞いてくれない。
桜介くんなりの遠慮だと理解しているけれど、風俗嬢に対する線引きだと思うと心に隙間風が吹いたような気分になる。
「自分が一番なのは、自分が大好きなのは、誰だって一緒だよ。そんなの当たり前じゃん。ちっとも責められることじゃない」
「そうですかね」
「そうだよ」
「でも俺は、いつか自分よりも大切にできる人が現れたら、そしたら人生もっと楽しくなるんだろうなって思ってます。なんか、いつか王子様がってのみたいですね。男なのに」
互いの過去を見つめて暗くなった雰囲気をほぐすように、桜介くんが笑った。
合わせて笑いながら、野々花をあやす伊織の姿を思い出す。
自分よりも大切にできる誰か。それを見つけられた時、人は本当の大人になれる気がする。
大人の幸せを、楽しさを、味わえる人間に。
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