フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第27話>
<27回目>
「住所、ここね」
快晴が手帳の最後のページに書きつけてある住所を運転手に見せ、タクシーが走り出す。快晴のマンションにつくまでの15分ほどの間、息苦しい無言が続いた。ふたりとも食事中にワインを開けたはずなのに、酔いは完全に冷めてしまっている。
話しかけるチャンスもないままタクシーを降り、マンションのエントランスを抜け、エレベーターに運ばれ最上階の2LDKにたどり着く。物が少ない、一人暮らしには広すぎる部屋。
自分の部屋で着替えをしている快晴をリビングで待ちながら、勝手知った家を片付けていた。
快晴のために淡々と手を動かす。ふと、結婚するとはこういうことなのだと思い立つ。ただ、相手のために動く、相手のために働く。
快晴のために働くことは、あたしの幸せに繋がるんだろうか?
部屋着に着替えてリビングに戻ってきた快晴が、あたしの体をかき抱き、ソファに乱暴に押し倒す。
さっきまでの喧嘩に等しい状況の後、いったい何がどうなって、性欲にスイッチが入ったのかわからない。
快晴はこういうことがちょくちょくある。感情の起伏が激しいのと同じで、そんなモードになるのもなぜか唐突だ。
「奈々子、奈々子」
いつものように執拗にあたしの名前を呼びながら、快晴の舌と指が体をまさぐる。
桜介くんとは随分違う、年齢相応に肉のついたお腹や太い骨に支えられた肩。落とした照明の中でそれらが上下するのを見つめながら、あたしは濡れていた。心の高ぶりと無関係に発情する体。表面だけで笑うように、表面だけで発情し、表面だけで濡れる。
あたしの中心は冷えたまま、あたしの穴は空っぽのまま。
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