フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第31話>
<31回目>
「奈々子せんぱーい、ちょっといいですかぁ」
10日ぶりに出社すると、お昼の休憩時間になった途端、有加がいつもと同じテンションでしゃべりかけてきた。
そういえば、今日仕事のこと以外で声をかけられたのは、これが最初だ。
母親を亡くしたことは部署全体に知れ渡っていて、みんなまさしく腫れ物に触るような態度。
詳しいことはまったく言っていないけれど、もしかしたら自殺だったとかアル中だったとか死ぬ前から精神を病んでいたとか、そんなことまで知れ渡っているんじゃないのか?
家族のことは有加にも話していないから会社の人にバレるはずはないんだけど、みんながみんな、つい疑ってしまうぐらいのよそよそしさだ。
「あのねぇ、あたし、奈々子先輩に相談があるんですよー。すごく深刻な話で、ここじゃちょっとできないからぁ、トイレ行きましょう」
トイレにはたまたま誰もおらず、有加は一番奥の個室のドアを開け、こっちこっちと手招きする。
そういえば小学校の頃、こうやってトイレの個室に連れ込んで、好きな男子がいるから協力してほしいと言った子がいたなと思い出す。今では彼女の名前も顔も思い出せない。
とても深刻な相談があるとは思えないうきうきと楽しそうな笑顔で、有加が携帯を取り出し、素早い手つきでボタンを操る。
「あたし、びっくりしちゃいましたぁ。奈々子先輩が、まさかみんなに内緒で、こんなバイトしてるなんてぇ」
携帯の液晶画面いっぱいに、手の甲で目を隠したあたしのベビードール姿が映る。ドリームガールのHPに出している写真だ。
ここ数日間、かつて味わったことがない悲しみとも喪失感とも呼べない強く重い感情とけだるさに支配されていた体に、銃弾を撃ち込まれたような衝撃が走る。
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