フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第36話>
<36回目>
突然泣き始めたあたしを見て、桜介くんが呆気に取られている。
震える喉で、「抱きしめて、キスして」と訴えたら、華奢でごつごつした腕に抱きすくめられた。
今までで一番荒々しく力強い抱き方だった。
濡れた目もとを唇で拭われ、咽ぶ口を口で塞がれる。オレンジジュースの甘酸っぱい味が少しだけあたしを落ち着かせる。
抱きしめられながら、全部話した。
母親が死んだこと、久々に父親に会ったこと、今日会社で起こったこと。死因が自殺だったと言うと桜介くんははっと息を詰まらせ、有加に言われた言葉をそのまま伝えたら、怒りに満ちた声を出した。
「ひどい、最低ですね。その子も、レナさんを助けなかった人たちも」
「でも、そういうものだよ。世の中って。わかってこの仕事やってるから……」
「ダメですよ、納得しちゃ。レナさんのしていることは犯罪ですか? 誰かを傷つけますか? レナさんの仕事が、どんなに俺みたいな男たちを元気づけているか、そんなこと言う人たちはわかってないんです。レナさんを軽蔑するのは、間違ってる考えですよ」
「……だけど、桜介くんだって、ほんとはあたしのこと、汚い女だって思ってるんでしょ!!」
素直な同情をかえって跳ねつけたくなり、声を荒げる。
桜介くんが目を見開いて今度こそ本当に怒った。
「思ってないですよ!! なんでそんなこと言うんですか?」
「だって、決まってるもん。この世界にいない人に、この世界の女の子のことがわかるわけないっ」
「……俺は、レナさんが好きです」
怒りを引っ込めた、でもはっきりと強い口調。
わかっていたことのはずだった。
なのに改めてちゃんと言葉にされたら、途端に胸が熱くなって頬に火がつきそうだ。
それは桜介くんも同じみたいで、赤くなった顔を俯けて続ける。
「好きだから……。だから、俺以外の男に触られてほしくない。レナさんが他の人にも俺と同じことをしているんだって思うと、胸をかきむしりたくなりますよ。苦しいですよ。やめてほしいですよ、正直。でも、客の立場でそんなこと言うなんて、勝手極まりないですよね」
「……そんなに、あたしが好き?」
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