フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第41話>
<41回目>
「話ってなんだろうね。もしかしてバレたの?」
「かもね」
メール画面を突き出して見せると伊織が心配そうに眉を寄せた。あたしは軽く化粧を直しコートを羽織る。
「え? 今すぐ行くの?」
「行く。苦手な教科の宿題って、後回しにしよって放っといたら、時間が経てば経つほど嫌にならない?」
「まあ、そうだけど。大丈夫なの? ひとりで。あたしも行こっか?」
「大丈夫。快晴と会ったことのない伊織が行っても、ね? 恋愛の後始末ぐらい、自分でつけられるよ、大人だから。これお会計」
伝票を見て、自分の分のお金を机の上に並べ、野々花ちゃんに手を振ってファミレスを出る。
これから戦地に赴くような気分で、ハイヒールを鳴らした。ファミレスの中は暖房が効き過ぎて熱いぐらいだったから、頬を打つ冷たい風が気持ちいい。
快晴と別れることは、とっくにあたしの中で決定事項だ。
決まってしまえば、後は言葉と行動だけ。
今ならちゃんと、快晴と話せる気がする。何を言われたって立ち向かえる。
そう思っていた。
でも、甘かった。
快晴の家につき、ドアを開けると、週に一度ハウスキーパーを呼び手入れしている2LDKが、強盗と熱を上げたデモ隊と血の気の多いヤンキーとがいっぺんに乱入したみたいになっていた。
観葉植物はへし折られ、カーテンは引っ張られて半分レールから落ち、何をやらかしたのか、ひとつ何十万単位のソファから中身がはみ出している。
全部快晴がやったんだと思うと恐怖で肌が粟立ち、やっぱり伊織を連れてくるべきだったと後悔した。
それでもひとりグラスを片手に、ソファに体を沈め、西日でオレンジ色に染まった窓をじっと見つめている快晴から目を逸らしてはいけない気がして、そろそろと歩み寄る。
目も顔も真っ赤で、瞳だけがギラギラしていた。
なんの表情も読み取れないうつろな目の酔っぱらいが、あたしの彼氏だった。
ガラステーブルには、中身が1/3残ったウイスキーの瓶がのっていて、どれだけ飲んだんだろう、床にも何本も空の瓶が散乱している。割れているものもある。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。