フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第6話>
<第6回目>
『ずっと気になってました、付き合って下さい』
――と、告白されたのは文化祭の日。みんなが打ち上げに行って誰もいなくなったこの教室で。
一度も話したことがない江口くんの気持ちをその場で受け取ったのは、中の下の下グレードで地味で目立たないわたしと、野球部に入っていたものの一度も活躍したことがなくて、かっこよくも可愛くもない江口くんは自分にピッタリだと思ったからで、江口くんがわたしに告白してくれたのも結局そういう意味じゃないかと勘繰ってしまう。
高3、秋。未だバージンでキスもしたことがない。
わたしは長い片思いに疲れ、このままだとバージンのまま高校を卒業してしまうことに危機感を覚えていた。
ようやく長谷部くんが西玄関から出てくる。
隣にはいつものように、華奢な背中の加恋ちゃん。
先生に怒られない程度のナチュラルな茶色に染めた天然パーマの頭が、ふわふわ揺れる。1学年下で野球部のマネージャーをやっている加恋ちゃんと長谷部くんが付き合い始めたのは、2年生になったばかりの頃だった。
お風呂でさんざん泣いた末、風邪を引いたぐらいショックだったけれど、だからって何もできない。
格好良くて、性格も良くて、クラスの中心人物で、そんな長谷部くんに今まで彼女がいないほうがおかしかったんだ。
さすがに校門を出るまで手は繋がないけれど、2人の体は触れそうで触れない、カップルじゃないとありえない距離で並んでいる。長谷部くんが何か冗談を言ったらしく、加恋ちゃんの頭がおかしそうに震える。
2人がまぎれもなく恋人同士であることを見せつけられて、胸がちぎれそう。
苦しいのに、切ないのに、それでも長谷部くんを一目見たくて、放課後窓から外を見下ろすことをやめられない。江口くんと付き合い始めてからも。
がたん、とすぐ隣で椅子を引く音がした。
隣の席の女の子はとっくに帰ってしまって、座ってるのは彩菜。こっちを見てちょっと怒った顔をしている。
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