フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第28話>
<28回目>
この部屋に呼ばれれば呼ばれるほど、体を求められれば求められるほど、長谷部くんのズルい気持ちが伝わってくる。今長谷部くんに彼女がいてもいなくても、風俗なんてやってる女はそれだけで論外なんだ。
あの頃も、肌を触れ合わせるようになった今でも、長谷部くんの眼中にわたしはない。
「ね、もう一度していい?」
抱きしめてキスをしてくる。さっきはぐったりしていたそこはもう熱くなってた。
「え、でももう時間来ちゃう」
「延長するよ。お金いくらだっけ?」
お店に電話して延長できるかどうかを尋ね、30分1万円の延長代を長谷部くんに告げる。いそいそと財布からお金を出す長谷部くんが急に他のお客さんと同じに見えて、10年の時を経て煮詰まって発酵した恋心が少しだけ冷めた。
勝手だな、わたし。風俗に来る男の人は、なかにはちょっとズレている人もいるけれど、ほとんどはごく普通のまっとうな社会人で、お金を払って自分の欲望を満足させているだけ。全然悪いことじゃない。わかっていても長谷部くんには違っていてほしいと思うのは、やっぱりまだ好きだから。
東京に来てから辛いことがあり過ぎて、それなりに新しい恋もして、すっかり長谷部くんのことを忘れてたはずだったけれど、多感な時期に生まれ、一人でひっそり温めた思いは薄れたって消えることはなく、ずっと心の奥底で眠ってたんだ。
「あぁ……美樹ちゃんの体気持ちいい……」
さっき果てた場所に再びインサートしながら長谷部くんはわたしの背中に強く強く手を回してくる。どんなに抱きしめられても、気持ち良くっても、体が満たされるほど心の隙間は大きくなっていく。
今日で会うのは5回目。長谷部くんはいくら顔を合わせても美樹=柿本千幸だって全然気づかない。それに安心する反面、切なくてたまらない。
いくら10年分老けたとはいえ、わたしのルックスは高校時代とそんなには変わっていない。それでもまったく気づかないってことは、それだけ長谷部くんの中の柿本千幸の存在が薄いってことだ。
きっとこの人は柿本千幸って名前すら覚えていない。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。