フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第12話>
<12回目>
始発電車の下りに乗ってる女って、同業者の率がかなり高いんじゃないかと思う。
土曜日の朝に友だちと連れだってワイワイ言ってるならオールの後だろうけど、平日の朝に1人疲れた顔でうとうとしてたら怪しい。
黒髪かナチュラルな茶髪で男受けの良さそうな恰好をしていたら風俗嬢、髪の毛を巻いてアップにしてたらキャバ嬢。
斜め向かいでタブレットをいじってるモロagehaメイクの女は100%キャバ嬢だな。ドアのすぐ横に立ってる黒いダッフルコートのパッと見真面目そうな女も、出張マッサージかなんかで働いてそう。
ここでも人間観察しながら、電車が最寄り駅に突くのを待つ。
野々花を預けている保育園まで、駅から歩いて4分。
園のすぐ前の路地で、空色のダウンジャケットを着た男の子の手を引く顔なじみのママとすれ違い、挨拶を交わす。男の子はたぶん2つか3つで、ママはおそらく34〜35歳。金髪に近い色の茶髪を夜会巻きにして、安っぽいファーコートに網タイツ。
挨拶以上の話をしたことは一度もないけれど、どんな仕事をしているのか聞かなくてもわかる。
新宿にも池袋にも鶯谷にも近くて、かつ家賃もお手頃なこの町の24時間保育園では、キャバや風俗で働くママを持つ子どもの割合がかなり高い。
「ママーっ!!」
野々花はドアを開けるあたしを見るなりなり、ぱっと顔中に笑顔を咲かせ、弾丸の勢いで飛びついてくる。鼻腔にふわり広がる、幼い子ども独特の匂い。ミルクとベビーオイルと卵ボーロを混ぜ合わせたような甘い匂いに一瞬のうちに癒される。
目に入れても痛くないって比喩は、ちっとも大げさじゃない。育児ははっきり言って苦行で戦争で、それでいて最上級の幸福をもたらす。
「しーっ! 静かにしないと、他の子が起きちゃうよ」
諭しながら抱き上げる。
日に日に重くなっていく小さい体が何よりも愛おしい。野々花の父親のことも、その他に過去に付き合った男のことも今やどうでもいいのに、なんで自分の子どもだけは無条件に愛せちゃうんだろう?
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