フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第20話>
<20回目>
いったい何を考えてるのか? あたしを何だと思ってるのか? したいならすればいい、そういう対象じゃないのならもう会いたくない……!
そんな感じのことを言ってるうちに、感情が沸騰してあふれ出して、最後は泣きながら怒ってた。
14才年上の彼の前で、あたしはまるきり子どもだった。
彼は子どもをあやす父親のように、優しく頭に手を置いて言った。
「君は面白い子だね……。教えてあげよう。男と女が触れ合うのは、とても美しくて大切なことだ、大切なことは、大事にしなきゃ」
美しいなんて形容詞をまったく照れを見せず、堂々と言う男の人は初めてだった。
かといって、芝居がかったクサい響きもなかった。
唖然としてるあたしの唇を持ち上げて、彼はあたしに、2人にとって初めてのキスをした。
ごく普通のサラリーマンだった。どこにでもいるごく平均的な顔だったけど、歳の割によく締まって手入れされた体と182cmの長身が恰好よかった。
ショップ店員に箱ヘルにソープ。いくつも仕事を掛け持ちし、さらに野々花の母親までやらなきゃいけないあたしには、あまり自由になる時間はなかったけれど、それでもお互い無理に都合をつけて、週に1度は会った。
ドライブしたし、海にも行ったし、彼と彼の息子とあたしと野々花と、4人で遊園地に行ったこともある。
彼の子ども、いい子だったな。しっかりして野々花の面倒もよく見てくれて、野々花のお兄さんになった彼の子どもを想像して、2人でほくそ笑んだ。
8カ月間、付き合った。
破局の原因はあたしの仕事……。もちろんショップ店員じゃなくて、風俗のほうの。
付き合いたてのラブラブな時期が過ぎると、彼は彼らしい冷静さと的確さで持って、あたしを責め出した。
「まだ若いのにいつまでもそんなことをしてて、いいと思ってるの?」
「10代の頃さんざん心配かけて、今も内緒でこんなことをして、君の親に申し訳ないと思わないのか!」
「一時の我慢で簡単に大金が手に入る、そんなことを覚えたらこの先必ず苦労する」
「野々花ちゃんのためだっていうのは、理由にならない。母子家庭のお母さんがみんながみんな、風俗で働くわけじゃないんだから」
――その頃言われた言葉たちは、今も心の奥深く沈んで、時々浮かび上がってきては喉の奥をちくちく刺す。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。