フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第21話>
<21回目>
生活費が足りないなら自分が援助するという彼の申し出を頑なに断っていた。
まだ結婚してもいないのに、お金の面で頼りたくない。それから、彼が経済的優位に立つことで精神的にも優位に立たれ、縛り付けられることを本能的に心配していた。
実際は、経済的援助を受けなくても、彼はあたしを縛り付けるようになった。
風俗の仕事に行く前と後、何人についていくら稼いだか、逐一自分にメールで報告すること。家計簿をつけて収支をきっちり把握し、定期的に自分にも見せること。
結果、メールが遅れては怒られ、家計簿に化粧品を買ったと書けば、「なんだ、野々花ちゃんのためじゃないんじゃないか、結局自分のために体を売ってるのか」と怒られた。
化粧水もファンデーションも女には必要不可欠で、特にショップ店員という見た目を整えておかなければならない仕事をしているんだからしょうがないと言っても、「だったらそんなものにお金がかかるばかりで、しかも風俗をやらないと暮らしていけないような仕事はやめるべきだ」と正論で反撃される。
会う度に喧嘩になった。
彼が怒り、あたしが怒り、怒りながら泣くと、彼は途端に冷静になってごめん言い過ぎたと謝り、その場でいったんは有耶無耶になる。とはいっても火種はそのままだから、また何かのきっかけで燃え上る、そんなことを飽きもせず繰り返した。
そして、2人とも疲れていった。
別れはあたしから告げた。「わかった」、彼はその一言だけで受け入れた。
優しい人だと思ったのに……。
いや、本当に優しいいい人で、あたしをちゃんと愛してくれたと今でも思ってる。
彼を変えたのは、あたしだ。
あたしが風俗をやっていることが、彼を粘着質で偏屈な束縛男にしてしまった。
もう二度と恋はしたくないとまでは思わないけれど、もう二度と好きな人をあんな嫌な男に変えたくはない。
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