フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第28話>
<第28回目>
2人とも出勤している日は、帰りのタイミングが合えば、冨永さんの車で家まで送ってもらうのがいつのまにか習慣になっていた。
もっとも冨永さんの場合店の終了間際に仕事が入って仕事場に女の子を送り届け、さらにその迎えまで任されて帰るのがとんでもなく遅くなったりするし、あたしだってまったく同じことがあり得るので、毎回上手くはいかないんだけれど。
セブンに入って女性誌をぺらぺらめくっていると、コートのポケットで携帯が震える。
『俺、今事務所! 精算終わったらすぐセブン行く』
精算=店からその日の分のお給料を受け取ること。事務所からここまでは車で5分もかからない。
もうすぐ会える。今から会える。
こんな時でもいつもと変わらず心は弾んでいる。でも、同時に会うのが怖いとも思う。
今、冨永さんの前でどんな顔をしたらいいんだろう?
トイレのないコンビニなので立ったままコンパクトミラーを開け、涙で溶けてしまったファンデーションとアイラインを塗り直す。頬の赤みはごまかせても、泣いて赤くなった目はどうしようもない。雑誌コーナーの前で立ったまま化粧してるもんだから、店員に睨まれた。無視した。
携帯が着信を告げる。発話ボタンを押すことなくそのまま外に出る。
冨永さんのグレーのワゴンが道の端に寄せて止められていて、普段店の女の子を乗せる後部座席じゃなくて、助手席のドアがあたしのために開く。いつものように辺りをさっと見回して店の関係者が歩いていないか確認した後、車に走った。
「店長から聞いたよ。変な客に当たったんだって?」
お疲れ、でもおはよう、でもなく、開口一番冨永さんが言った。ドアを引っ張って閉めながら体を固くする。
「大丈夫だった? 凛、メールに何も書いてこないから、余計に心配だった」
「……大丈夫だよ」
「嘘つくなよ。目、腫れてるじゃん」
あたしの顔を覗きこむ冨永さんを正面から見れない。
心臓がどくどくどくどく、体の奥で不穏に響いている。
「俺もこの仕事長いからさ、大体想像つくよ、何があったのか」
「……」
「大丈夫だから、言えよ」
「……」
「なんで何も言ってくれないの。こういう時のために俺がいるんだよ」
「ヤッてもないくせに、えらそーに言うなよ!!」
喉が爆発して叫びが車内に響き渡った。
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