泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第9話>
<第9話>
じっくり煮込みたいから、ル・クルーゼの鍋はとろ火にしておいて、具材が鍋の中でそれぞれおいしい味を出し合い、ひとつに溶け合うのを待つ。
幸せの音に耳を澄ませながら、夢心地。ことこと。ことこと。
恋って素敵だな。ひとを好きになるって、いいな。
颯太くんに会ってる時はもちろん、会ってない時だってわたしは幸せなんだ。目の前にいなくたって、颯太くんのことをちゃんと考えているから……。颯太くんのために生きられるから……。
「おはよう……、ただいま」
わーい、夢の中で颯太くんに会えたー、と思ったら、夢よりもずっとはっきりした、リアルな手の感触で頭をくしゃっとされた。
とっぷり眠りの世界に浸かっていたせいで重だるい頭を起こすと、夢じゃない、本物の颯太くんの笑顔がすぐ目の前にある。
ダイニングテーブルに突っ伏せて眠っていたせいで腕がしびれて痛いけど、そんなのも吹き飛んじゃうほど、嬉しさで心臓がパンクしそう。びんびん痺れたまんまの腕で颯太くんに抱き付いた。
「おかえりっ!! あれ、え、今何時?」
「5時半。今日、カレー? めっちゃいい匂いする」
「わー、どうしよう! カレーお鍋にかけたまま寝ちゃってたぁ」
「いいじゃん、じっくり煮込んだほうがうまいし」
長い睫毛に囲まれた切れ長の目が、大好きな匂いをかぎ分けて嬉しそうに細まる。
そして改めて、ただいまのキス。
颯太くんの形のいい唇は、乾燥する季節でもしっとり潤って柔らかくて、ほんのりフルーティーな香りがする。どんな高級スイーツより、甘い。
何時間も煮込んだせいで、野菜の形はすっかり崩れていたけれど、颯太くんの言う通り、いつもよりずっとおいしいカレーに仕上がっていた。颯太くんはお皿まで舐めんばかりの勢いで、もりもり食べてくれる。
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