泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第9話>

2014-12-30 20:00 配信 / 閲覧回数 : 926 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Urara 泡のように消えていく… 連載小説


 

JESSIE

 

<第9話>

 

じっくり煮込みたいから、ル・クルーゼの鍋はとろ火にしておいて、具材が鍋の中でそれぞれおいしい味を出し合い、ひとつに溶け合うのを待つ。

 

幸せの音に耳を澄ませながら、夢心地。ことこと。ことこと。

 

恋って素敵だな。ひとを好きになるって、いいな。

 

颯太くんに会ってる時はもちろん、会ってない時だってわたしは幸せなんだ。目の前にいなくたって、颯太くんのことをちゃんと考えているから……。颯太くんのために生きられるから……。

 

「おはよう……、ただいま」

 

わーい、夢の中で颯太くんに会えたー、と思ったら、夢よりもずっとはっきりした、リアルな手の感触で頭をくしゃっとされた。

 

とっぷり眠りの世界に浸かっていたせいで重だるい頭を起こすと、夢じゃない、本物の颯太くんの笑顔がすぐ目の前にある。

 

ダイニングテーブルに突っ伏せて眠っていたせいで腕がしびれて痛いけど、そんなのも吹き飛んじゃうほど、嬉しさで心臓がパンクしそう。びんびん痺れたまんまの腕で颯太くんに抱き付いた。

 

「おかえりっ!! あれ、え、今何時?」

 

「5時半。今日、カレー? めっちゃいい匂いする」

 

「わー、どうしよう! カレーお鍋にかけたまま寝ちゃってたぁ」

 

「いいじゃん、じっくり煮込んだほうがうまいし」

 

長い睫毛に囲まれた切れ長の目が、大好きな匂いをかぎ分けて嬉しそうに細まる。

 

そして改めて、ただいまのキス。

 

颯太くんの形のいい唇は、乾燥する季節でもしっとり潤って柔らかくて、ほんのりフルーティーな香りがする。どんな高級スイーツより、甘い。

 

何時間も煮込んだせいで、野菜の形はすっかり崩れていたけれど、颯太くんの言う通り、いつもよりずっとおいしいカレーに仕上がっていた。颯太くんはお皿まで舐めんばかりの勢いで、もりもり食べてくれる。

 

 




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