泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第33話>

2015-01-23 20:00 配信 / 閲覧回数 : 904 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Urara 泡のように消えていく… 連載小説


 

 

JESSIE

 

<第33回>

 

「急なんですけどわたし、ローズガーデン辞めることにしました。結婚が決まったんです、お腹に赤ちゃんもいます。沙和さんに最後に会えてよかったです、今までありがとうございました」

 

一瞬、空気が凍ったような沈黙。

 

知依ちゃんとすみれさんがえっと声を上げ、雨音さんが無言のまま目を見開いた。沙和さんがおろおろと立ち上がり、強張った顔を近づけてくる。当然、笑みは消えていた。

 

「それは、妊娠したってこと?」

 

「はい。わたし、ママになりまーす」

 

「どうして……ピルは飲んでたのよね?」

 

「もちろん飲んでましたよー。でも、この通りうっかりしてるんで、ついつい飲み忘れちゃうんですよねー。もともと生理不順だから3カ月生理が来てないことも、昨日まで忘れてて」

 

「3カ月って……ピルもらいに行く時、病院で問診があるでしょ? それで気づかなかった?」

 

「わたし、いつも通販でまとめ買いしてるんです」

 

「ピルって通販で買えるんですね」

 

知依ちゃんがぽかんとした顔で言った。真面目少女の知依ちゃんが驚くのはまだしも、沙和さんやすみれさんや雨音さんまで、こんな反応することないのに。そんなにわたしが妊娠するのが、おかしいこと?

 

「結構、ネットで買ってる子いるよ。日本で未承認の、海外製のやつだけど。手軽だしお買い得なのがウリ。もっとも、自己管理できないバカが手を出すと、こういうバカな事態を招くんだよね」

 

雨音さんの毒舌も、今は気にしない。ムカつくけど。この人とも今日限りでサヨナラだ。

 

「さーてっと。荷物まとめなきゃー」

 

唖然としている4人に背を向け、ロッカーに歩み寄る。自分の籠を引き抜いて、ちょっと考えてからペリリと名刺を剥がした。まず中身を床の上に全部出して、いるものといらないものとを選り分ける。イソジンとか海綿とか、仕事に使うものは捨てていこう。下着やストッキングは持って帰るとして、お客さんからもらったマグカップはどうしようかな。颯太くんと暮らす空間に置いておくのは嫌だし。

 

「ねぇねー、このカップ誰かもらってくれない? 1,2回しか使ってないし全然茶渋とかついてないし、キレイだよー」

 

「それよりも親には言ったわけ?」

 

すみれさんが目の前に立ちはだかった。正確には座ったんだけど。しかも正座でしゃっきり背筋が伸びている。この前と同じだと気づいて、お説教モードにため息が出そう。無視して作業を続けていると、早口で攻撃してくる。

 

「ねぇ親には言ったの? 相手の親には? 彼氏、まだ若いんでしょう? というか彼には? 病院には」

 

「……」

 

「ちゃんと答えて!」

「もう、うるさいなー。颯太くんには最初に言ったし病院には今行ってきました! 妊娠に間違いないって。ママにも報告したよ。おめでとうって、喜んでくれた」

 

「あぁ、いいトシして次々男に入れ込んで、時々金欲しいって泣きついてくる、例のバカ親ね。おばさんソープ嬢の」

 

今日は雨音さんの相手はしないって決めてたけど、さすがにこれは聞き捨てならない。おばさんのところで、怒りのボルテージが一気に頂点まで突き上げた。

 




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