泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第33話>
<第33回>
「急なんですけどわたし、ローズガーデン辞めることにしました。結婚が決まったんです、お腹に赤ちゃんもいます。沙和さんに最後に会えてよかったです、今までありがとうございました」
一瞬、空気が凍ったような沈黙。
知依ちゃんとすみれさんがえっと声を上げ、雨音さんが無言のまま目を見開いた。沙和さんがおろおろと立ち上がり、強張った顔を近づけてくる。当然、笑みは消えていた。
「それは、妊娠したってこと?」
「はい。わたし、ママになりまーす」
「どうして……ピルは飲んでたのよね?」
「もちろん飲んでましたよー。でも、この通りうっかりしてるんで、ついつい飲み忘れちゃうんですよねー。もともと生理不順だから3カ月生理が来てないことも、昨日まで忘れてて」
「3カ月って……ピルもらいに行く時、病院で問診があるでしょ? それで気づかなかった?」
「わたし、いつも通販でまとめ買いしてるんです」
「ピルって通販で買えるんですね」
知依ちゃんがぽかんとした顔で言った。真面目少女の知依ちゃんが驚くのはまだしも、沙和さんやすみれさんや雨音さんまで、こんな反応することないのに。そんなにわたしが妊娠するのが、おかしいこと?
「結構、ネットで買ってる子いるよ。日本で未承認の、海外製のやつだけど。手軽だしお買い得なのがウリ。もっとも、自己管理できないバカが手を出すと、こういうバカな事態を招くんだよね」
雨音さんの毒舌も、今は気にしない。ムカつくけど。この人とも今日限りでサヨナラだ。
「さーてっと。荷物まとめなきゃー」
唖然としている4人に背を向け、ロッカーに歩み寄る。自分の籠を引き抜いて、ちょっと考えてからペリリと名刺を剥がした。まず中身を床の上に全部出して、いるものといらないものとを選り分ける。イソジンとか海綿とか、仕事に使うものは捨てていこう。下着やストッキングは持って帰るとして、お客さんからもらったマグカップはどうしようかな。颯太くんと暮らす空間に置いておくのは嫌だし。
「ねぇねー、このカップ誰かもらってくれない? 1,2回しか使ってないし全然茶渋とかついてないし、キレイだよー」
「それよりも親には言ったわけ?」
すみれさんが目の前に立ちはだかった。正確には座ったんだけど。しかも正座でしゃっきり背筋が伸びている。この前と同じだと気づいて、お説教モードにため息が出そう。無視して作業を続けていると、早口で攻撃してくる。
「ねぇ親には言ったの? 相手の親には? 彼氏、まだ若いんでしょう? というか彼には? 病院には」
「……」
「ちゃんと答えて!」
「もう、うるさいなー。颯太くんには最初に言ったし病院には今行ってきました! 妊娠に間違いないって。ママにも報告したよ。おめでとうって、喜んでくれた」
「あぁ、いいトシして次々男に入れ込んで、時々金欲しいって泣きついてくる、例のバカ親ね。おばさんソープ嬢の」
今日は雨音さんの相手はしないって決めてたけど、さすがにこれは聞き捨てならない。おばさんのところで、怒りのボルテージが一気に頂点まで突き上げた。
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