泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第34話>
<第34回>
「ママのことそんなふうに言わないで! お金はわたしがあげたいからあげてるの、親孝行は当たり前でしょ? あとうちのママはおばさんじゃないもん。若々しくって、キレイなんだから」
「ろくな親じゃないじゃん、娘に金せびるなんて。マジ、あんた現実見えてなさ過ぎ」
「ママの悪口言うとわたし、キレるよ!」
「もうキレてるし」
「お金の話は別にしても。はっきり言って、うららちゃんのお母さんわたしたちにはいい人だとは思えないな」
思いっきり睨みつけてもすみれさんはちっとも怯んだ様子は見せない。わたし「たち」とひとくくりされたのが嫌だったのか、雨音さんがすみれさんを見やって顔をしかめた。
「話聞いてる感じ、その人は親としての役目をまったく果たしてないし、親の自覚があるかどうかも疑わしいわ。自分がソープで働いてるからって、娘が同じ仕事に就くのをあっさり認めちゃうなんて。わたしだったら、自分に子どもができたら絶対にこの業界には入れたくないもん。どういう世界だかよく知ってるから、余計に」
「すみれさんに何がわかるの!!」
喉がかあっと燃え上がって、悲鳴のような声がはじけた。イソジンの瓶を掴んだ指先がぷるぷる、震えてる。今まで見ようとしていなかったこと、知ろうとしていなかったこと、認めたくなかったことを無理やり目の前に突き付けられて、肩が小刻みにわなないた。
すみれさんは構わず続ける。奥二重の切れ長の目に面長の輪郭、貧相な印象の薄い唇。純和風の薄幸そうな顔が、見当違いの正義感に輝いていた。
「なんかその人自身が、いいトシしてまだ子どもっていうか、子どもが子ども産んじゃったっていうか」
「何よ、ママに会ったこともないくせに! この前の颯太くんのことにしたって、すみれさんんはいつもわたしの話だけ聞いて、よく知らない人のこと決めつけるよね? そういうのって最低」
「いいわよ、最低で」
開き直った声と揺るがない視線に、はっとさせられる。この前、襟首を掴まれたのを根に持ってるんだろうか?
すみれさんの小ぶりな目にはもう、迷いがない。
「こんなこと言ってもお節介だとしか思われないだろうけど。もし今うららちゃんが子どもを産んだら、あなたのお母さんと同じになるわよ。子どもが子どもを産んだ母親」
「何よ、それ……!」
「だって、うららちゃんの彼氏はとても頼りにならなそうだし、今のうららちゃんがまともに子どもを育てられるとは思えない。そもそも、自分のことだってちゃんとできてないじゃない。まだ若いのに恋にばっかり夢中になって、何の目標もなくて。自分自身と、自分の人生と、しっかり向き合ったことなんてないでしょう? そういう生き方ってどうかと思う。もっと考えなきゃ」
「考えるなんて、無理だよ。わたし、バカだもん」
まっすぐわたしを責める言葉に、思わず本音がぽろりとこぼれた。俯けた顔を覗きこもうとすみれさんが身を乗り出してくる。
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