泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第35話>
<第35回>
「そうやって開き直るのが逃げてるのよ! ほんとはうららちゃん、きちんと考えられるしもっとちゃんとした人生を生きられるはずなのに」
「あんただってそんなこと言えるほど立派じゃないでしょ。こんなとこで働いてる時点で、みんな似たようなもんなんだから」
すみれさんが喉を突かれたようにさっと青ざめ、固まった。横やりを入れた雨音さんは右手でシャープペンをくるくる回しつつ、左手で頬杖をついてこっちを見ながら続ける。
「あんたが何しようと勝手だし、子ども産もうがホストの彼氏についていこうがどうでもいいけどさ。ただ、ピルを飲み忘れて妊娠するのは、ひどいね。プロ意識の欠如がそういう自己管理能力のなさに表れるんだよ」
遠慮のない冷たい言葉でぶすぶす、刺してくる。言い返す気にもなれない。プロ意識の欠如。自己管理能力のなさ。雨音さんはほんとに意地悪な人で、この人がいなければなぁって何度も思ったけど、今だけ正しいと認めざるをえなかった。
「ていうか、仕事で誰だかわかんない子ども妊娠して、それで喜んでるのがマジ意味不明。普通、おろすでしょ。あんたがやらかしたのは恥ずかしいことなんだからね」
「お客さんの子どもじゃないもん! 間違いなく、颯太くんだもん!!」
負け惜しみみたいだと思いながら、怒鳴った。雨音さんはあっそとため息をついて顔を背け、すみれさんは青い顔のまま黙ってた。知依ちゃんは何か言いたいことがあって言わずに我慢しているような目でわたしを見ていて、沙和さんが知依ちゃんの肩に心配そうに手を置いている。
どんなに嫌なことがあったって、心に植えつけられた不安がむくむく膨らんでたって、わたしが帰る場所はひとつしかない。大丈夫だきっと。たしかにわたしはすみれさんや雨音さんの言うとおり、何の目標もなくて自分の人生から逃げてて仕事もプロ意識に欠けてるけれど、颯太くんがいる。颯太くんがこれからずっと守ってくれる。一人じゃない。
一生懸命自分に言い聞かせた。後から後から黒雲のように湧いてくる不安を、打ち消した。大丈夫大丈夫大丈夫。颯太くんを信じる以外、どうしようもない。
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