泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第36話>
<第36回>
「ただいま」
いつものように玄関のドアを開けて言う。いつものようにクツ箱の上で微笑んでる颯太くんに口づけようとして、気づく。颯太くんがいない。
フォトフレームはたたきの上に落ちていた。落ちた衝撃で表面のガラスにヒビが入っている。家を出た時には間違いなくクツ箱の上にあったはず。それが床に落ちてるってことは? 地震は起きてないし、まさか泥棒に入られた? でも鍵はちゃんとかかってたし。
もしかして颯太くん、中にいるの? でもたたきの上のどこにもクツはない。
クツ箱の扉を開けてみたけど、中にも颯太くんのクツはなかった。いつも履いているお気に入りだけじゃなくて、一足も。
わたしのクツが、隙間だらけの棚の間で寂しそうにしている。位置が自分で決めたものとずれていてミュールもサンダルも倒れていて、急いで中身を引っ張り出した後みたいだ。フォトフレームはその衝撃で落ちたのかもしれない。
そんなわけない。絶対ない。でも、ひょっとしてひょっとしたら。
ブーツを脱ぎ捨てて家に上がり、ベッドルームに直行する。ベッドルームの一角を堂々と占めている、颯太くんのコレクション棚――ガラスの扉の向こうにブランドものの香水とかアクセサリーとか時計とかがお店のショーケースのようにきれいに納められていて、みんなお客さんからのプレゼントらしい――が、空っぽだった。
クローゼットを開けると颯太くんの服がそっくり、なくなっている。旅行用のスーツケースとボストンバックも消えていた。本棚にずらり並んでいた颯太くん愛読のマンガも、ない。
颯太くんは服とかお客さんのプレゼントとかマンガとか、全部売りに出したんだ。スーツケースとボストンバックは荷物を入れるのに使っただけ。わたしの出産に備えてなのか親へ渡す50万のためなのかわからないけれど、とにかくお金を作るつもりだったんだ。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。