泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第38話>
<第38回>
『無理なんだよ』
頭の中の顔が言う。記憶の中そのままに、いやらしい笑みを浮かべて。
『無理なんだよ、君が幸せになるなんて』
やたら赤い唇が歪んで、にやつきながら言う。欠けた黄色い前歯がぎらんとした。わたしは呪文で必死に抵抗する。そんなわけないそんなわけないそんなわけない……
わたしを嘲笑うように頭の裏で「無理だ無理だ」と繰り返すのは、ママの彼氏だった人だ。そして、わたしの初体験の人でもある。たったの10才で、セックスはおろか恋さえ知らなかった頃のことだ。
『ほんとかわいい子だね。大好きだよ』
しょっちゅううちにやってきたあの人は、まだ胸もふくらんでないわたしを膝の上に乗せたり添い寝したりしながら、そう言って何度も頭を撫でてくれた。
父親を知らないわたしにとっては、ママより大きくてごつごつした手に撫でられるのは、新鮮な体験だった。
それまでもママの彼氏だという人は何人かうちにやってきたけれど、あの人が一番優しかった。いっぱいかわいいとか大好きだとか言ってくれて、おもちゃもお菓子も、なんだって買ってくれて。
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