泡のように消えていく…第二章〜Urara〜<第40話>
<第40回>
あの人はいきなり、ぱったりと家に来なくなった。そしてまた新しいママの彼氏が現れた。ママがちっとも落ち込んだ様子を見せずべたべた新しい彼氏に甘えてたところを見ると、ふったのはママのほうなのかもしれない。ふられたのはわたしだ。
わたしはあの人に捨てられたんだ。あんなに好きだって言ってくれたのに。あんなにたくさんセックスしたのに。ホッとした一方で、苦しい思いが10才のわたしの心をいっぱいにした。
憎くて恐ろしくて、愛おしいあの人を、忘れることにした。忘れて、幸せになりたかった。あの人のように大好きだって言ってくれる誰かが、頭を撫でて抱きしめてくれる優しい手が、死ぬほど欲しかった。
何人かの人――あの人のようにかわいいねって、好きだって言ってくれる――が現れて、去っていった。みんな最初は喜んでわたしを愛してくれるけれど、やがてそっぽを向いてしまう。
『重い』『ウザい』『ベタベタすんな』『そんなに依存されたら、正直しんどい』……そんな言葉たちに何度も傷つけられた。
颯太くんは違うと思ったのに。今度こそ幸せになれるはずだったのに。
1人だけの部屋の中から颯太くんの痕跡を探す。
服もブランドものもマンガもごっそり持っていった颯太くんだけど、いつも使っているマグカップはシンクの洗いものの籠に置きっぱなしだったし、まだ乾いていないTシャツがハンガーにかけられたままだった。
灰皿には煙草が何本か刺さっていた。灰皿から煙草を引き抜き、普段吸わないそれを咥えた。颯太くんの味がする気がして、ひびだらけの心が少し温まった。でもまもなく、ぬるま湯から出た時みたいにいっそう冷たくなる。
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