泡のように消えていく…第三章~Amane~<第1話>
<第1話>
目覚めたてのまだうまく焦点が合わない目に、黒い綿毛のようなものがふわふわ、空中を漂っているのが映る。
視界が少しずつ鮮明になっていくと共に、綿毛にしか見えなかったそれが輪郭をはっきりとさせる。小さい真ん丸の体。ほっそりした8本の足。吐き出される煙のような糸。蜘蛛だ。爪の先ぐらいの大きさの、すぐに捕まえて潰せそうなか弱い蜘蛛。
空気の流れに従い、根なし草みたいにゆらゆらしていたそれが鼻の頭に着地する。右手で振り払おうとすると、その手にも蜘蛛が2、3匹とまっている。痩せた足をせっせと動かし、どこへ向かうともなくうごめいている。そいつらを振り払うため左手を伸ばせば、左手にも蜘蛛がひっついていた。こっちには6、7匹はいるだろうか。
払っても払っても蜘蛛はどこからか湧いてきて、どんどんその数を増やしていく。
腕だけじゃなくて鼻を中心に顔全体に広がり、髪の毛の間からシラミみたいに飛び出して、胸もお腹も脚も、股間まで、体全体が蜘蛛に埋め尽くされる。まるで蜘蛛が蜘蛛を産んでるんじゃないかと思うほどの勢い。いくらひとつひとつは小さな可愛い蜘蛛だからって、こんなにいたら気持ち悪い。
必死で手足をばたばたさせるあたしを嘲笑うがごとく、やつらは加速度的に増殖し、やがてあたしの体を、ベッドを、寝室をまるごと、埋め尽くしてしまう。天井に向かって黒い竜巻が起こっていると思ったら、増えすぎた蜘蛛の渦だった。無数の蜘蛛が口や耳の穴から侵入しようとしてきて、必死で手を動かし阻止する。
「やーめーてー!!」
叫んだ途端、今度こそ本当に目が覚めた。
枕元では目覚まし時計のベルがジリジリ、不愉快な音でがなり立てている。とりあえずそれを切って体を起こした。
時間を確認する。7時間は寝ているはずなのに、寝不足みたいに頭が重い。さっきまで繰り返し咳き込み、気道へ入ってくる蜘蛛を必死で吐き出していた喉が、狂ったように喘いでいた。秋の終わりなのにパジャマが汗でぐっしょり濡れている。
「最低」
自分に向けて独り言を吐き捨ててから、ベッドを出た。
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