泡のように消えていく…第三章~Amane~<第1話>

2015-02-02 20:00 配信 / 閲覧回数 : 947 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Amane 泡のように消えていく… 連載小説


 

 

JESSIE

 

<第1話>

 

目覚めたてのまだうまく焦点が合わない目に、黒い綿毛のようなものがふわふわ、空中を漂っているのが映る。

 

視界が少しずつ鮮明になっていくと共に、綿毛にしか見えなかったそれが輪郭をはっきりとさせる。小さい真ん丸の体。ほっそりした8本の足。吐き出される煙のような糸。蜘蛛だ。爪の先ぐらいの大きさの、すぐに捕まえて潰せそうなか弱い蜘蛛。

 

空気の流れに従い、根なし草みたいにゆらゆらしていたそれが鼻の頭に着地する。右手で振り払おうとすると、その手にも蜘蛛が2、3匹とまっている。痩せた足をせっせと動かし、どこへ向かうともなくうごめいている。そいつらを振り払うため左手を伸ばせば、左手にも蜘蛛がひっついていた。こっちには6、7匹はいるだろうか。

 

払っても払っても蜘蛛はどこからか湧いてきて、どんどんその数を増やしていく。

 

腕だけじゃなくて鼻を中心に顔全体に広がり、髪の毛の間からシラミみたいに飛び出して、胸もお腹も脚も、股間まで、体全体が蜘蛛に埋め尽くされる。まるで蜘蛛が蜘蛛を産んでるんじゃないかと思うほどの勢い。いくらひとつひとつは小さな可愛い蜘蛛だからって、こんなにいたら気持ち悪い。

 

必死で手足をばたばたさせるあたしを嘲笑うがごとく、やつらは加速度的に増殖し、やがてあたしの体を、ベッドを、寝室をまるごと、埋め尽くしてしまう。天井に向かって黒い竜巻が起こっていると思ったら、増えすぎた蜘蛛の渦だった。無数の蜘蛛が口や耳の穴から侵入しようとしてきて、必死で手を動かし阻止する。

 

「やーめーてー!!」

 

叫んだ途端、今度こそ本当に目が覚めた。

 

枕元では目覚まし時計のベルがジリジリ、不愉快な音でがなり立てている。とりあえずそれを切って体を起こした。

 

時間を確認する。7時間は寝ているはずなのに、寝不足みたいに頭が重い。さっきまで繰り返し咳き込み、気道へ入ってくる蜘蛛を必死で吐き出していた喉が、狂ったように喘いでいた。秋の終わりなのにパジャマが汗でぐっしょり濡れている。

 

「最低」

 

自分に向けて独り言を吐き捨ててから、ベッドを出た。

 




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