泡のように消えていく…第三章~Amane~<第5話>
<第5話>
個室の内線電話でフロントに終了を告げてから客と階段を下り、接客したソープ嬢プラス男子従業員一同でお見送り。
この、女の子もお見送りに参加するシステムはうちの店に特有なのか、ここの他に2軒のソープで働いたけれど2軒ともなかったことなので、ローズガーデンに来て1年半たった今でも慣れない。
個室の薄暗い照明の下で90分や120分向き合い続け、互いの痴態をさらし合った客に部屋の外で笑いかけるのが、どうも気恥ずかしい。何百人何千人もの見知らぬ男と金を引き換えにセックスしてきて、未だにそんな羞恥心を持ち合わせていることが滑稽だ。
待機室に戻ろうとすると、隣の面接室からいつも以上にピリピリした顔の朝倉さんが出てくる。長い脚をせかせか動かして、イラついてるのが丸わかり。その背中に飛びつくように女の子が一人、長い髪の毛を振り乱して部屋から飛び出してきた。
面接の子かと思ったら、違った。
「お願いします! お腹がおっきくなるまででいいんです、出産費用と当面の生活費だけ確保できれば」
最後に見たのは1、2週間前だったっけ。休みのはずなのにいきなり待機室に現れ、妊娠と結婚と退店を宣言した、あの日以来だ。
お客さんの子どもじゃないと、幼児が駄々をこねるみたいな口調で言い放ったうららが、今は目を真っ赤にして顔じゅう涙と鼻水だらけで、朝倉さんの長い足に取りすがる。
「何度言えばわかるんだ、そんな体で働かせるわけがないだろう。その体で働かせる店は、女の子のことなんて何も考えてない目先の売り上げしか見えてない店だ。うちはそんな店じゃない」
「お願いです! もちろん必要な額が稼げればすぐ辞めます! 何があっても朝倉さんのことは責めません、わたしの自己責任です!!」
「何を言われたって無理だ。どうしても働きたいなら産んだ後にするか、おろしてからにするんだ」
「そんな、おろすなんて……。ひどいーっ!!」
朝倉さんが困った顔で足にすがりつくうららを振り払うと、うららはついに廊下にぺたんと座りこみ、うわーんと泣き出した。完全に駄々っ子の行動だ。これが本当に、母親になろうとしている女だろうか。
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