泡のように消えていく…第三章~Amane~<第30話>
<第30回>
厚手のパーカーの上から毛糸のマフラーをぐるぐる巻いて、それでも寒そうに背中を丸めて小刻みに震えてる飛鳥は、ペットショップの売れ残りの子犬みたいだ。
深夜1時過ぎ。もう夜はかなり冷える。
あたしに向かって口を動かすと、白い息がふわり立ち上った。
「お帰り」
「なんで来てるの」
別れてからもう1年以上が経ち、とっくに合鍵を返してもらった今でも、飛鳥は時々こうして事前の連絡なしに、押しかけるように家にやってくる。最初の頃はストーカーめいた行動になんて未練がましい男と呆れたものだけど、最近ではすっかり慣れてしまった。
きっと飛鳥にしたら、ただ純粋にあたしを心配しているだけで、他意はない。
「お前に話あって」
肩をぶるぶるさせてそんなこと言っても、全然格好つかない。こっちはオープン~ラストのフル出勤、4人もの客の相手をした後で疲れている。とても飛鳥と話す気分じゃないが、あたしだって鬼じゃないのだ。こんな寒い夜にガタガタ震えて舞っている男を、冷たく帰すわけにもいかない。
「とりあえず上がったら」
淀んだ空気が詰まった家の中は冷えていた。座布団を差し出すけれど飛鳥は座ろうとせず、そのまま突っ立っている。ほっといてキッチンに向かい、インスタントコーヒーを淹れていたら不機嫌な声が背中に投げられた。
「いいよ、そんなことしなくて」
「あたしが飲みたいの」
「お前、これ」
振り返ったら『依存症に打』と、丁の端がぎざぎざに破れている文字が目に入って、この紙くずが一体何なのか、思い出すのに数秒かかった。
飛鳥の顔を改めて見つめると、怒っている。同じ店で働いていた期間や恋人同士だった期間を含めておよそ2年の付き合いだけど、かつて飛鳥がこんなに怒ってるところを見たことがあっただろうか。
飛鳥の怒りは赤よりも温度の高い青の炎みたいに、静かで激しい。
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