泡のように消えていく…第三章~Amane~<第31話>
<第31回>
「この前帰ってる時、これが降ってきて。拾ってみたら見覚えのある字でさ。お前が何したのかわかったよ」
キッチンに立ったまま、くるんと背を向けた。マグカップにインスタントコーヒーとクリームの粉をすくって入れる。もちろんそんなことで飛鳥は引き下がらない。
「何でこんなことするんだよ?」
「この前も言ったでしょ。あたしにこういうのは必要ない」
「だからそんなの自分で決めんなって言ってんだろ!」
「飛鳥にはあたしの気持ちなんてわかんない!!」
怒りを爆発させかけた飛鳥に対抗するように、あたしもキレた。
エスが欲しくて欲しくてたまらないのに、今だってその気になればすぐ手に入れられるのに、自分にエスを禁じている辛さ。もはやエスに対する要求はご飯を食べたいとかトイレに行きたいとかと同じレベルのもので、それが満たされない苦しさが経験してない飛鳥にわかるわけもない。そのこと自体はしょうがないとわかっていて、でもそんな飛鳥にしつこくつきまとわれるのが死ぬほどイラつく。
あたしは飛鳥の思いに応えられない、応える資格もない。
飛鳥は血走った目であたしを睨みつけて、それからふっと肩を落とした。
「そりゃ、俺にお前の気持ちはわかんねーよ。でも、しょーがないじゃん? お前、付き合ってた時だって、友だちに戻ってからも、全然自分のこと言わねーしさ。なんでエスなんかにハマったのかも、腰の傷がどうしてついたのかも、大事なこと俺は何も知らねーんだよ」
嫌われるのが怖いわけじゃない。飛鳥を信用してないわけでも……。
ただ、嫌だった。
かわいそうな女の子扱いされて同情されたりとか、愚かだと叱られたりとか、そういったことが。
悲劇のヒロインぶる気はないが、あたしの肩に背負っているものは大き過ぎる。
永久に消えることなく過去にしっかり刻みつけられた事実を受け入れ、人前に晒すには自信と勇気が必要で、どうしたらそのふたつが手に入るのか皆目見当がつかない。
あたしだって本当はもっと楽に生きたいのに……。
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