フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第32話>
<第32話>
この人はからかってるんでも面白がってるだけでもなく、ちゃんと考えがあって、自分を見染めてくれたのだと、初めて聡の好意に納得できた。
それまで恋愛の楽しみは、バラの花の子だけの特権で、男の子だってそういう子しか相手にしないと思っていたけれど、聡は、「薄っぺらい」自信に惑わされてしまう男の子たちとは違っていた。
「藍美ちゃんは、そんな、時間が経てば自然になくなっていくような自信じゃなくって、もっと別のところで、ちゃんと人としての自信をこれから作り出そうとしてるんだよな。偉いと思う」
「そんな、違う。私は見た目に自信を持とうとしても持てなかったんだのだもの、他に選択肢がなかっただけのことだよ。全然立派じゃない」
「それでも俺にとってはただ可愛いだけの子より、藍美ちゃんのほうが魅力的なんだよ。『私』の後に、“なんか”なんて、つけちゃダメだよ。
ぺんぺん草、すげーじゃん。温室育ちのバラはすぐしおれるけど、アスファルトの隙間に咲いたぺんぺん草は踏みつけられたって、犬にしょんべんかけられたって、平気なんだぜ」
白い歯を出して笑う聡の笑顔に笑顔で返しながら、急速に恋は始まっていった。
その日の帰り道、私たちは初めて手を繋ぎ、抱きしめられてキスをした。
その三週間後、聡のアパートの部屋で体を重ねた。トラウマになりそうなほど痛くて、話に聞いていたように気持ち良くはまったくなかったけれど、愛した人に体ごと愛される快感で、涙が出そうになった。
私は、あの時たしかに聡が好きだった。
今はどうだろう?
あの頃のように、未来への希望をいっぱいに瞳に漲らせていた聡はもうどこにもいない。
就職と退職と再就職活動への失敗で、すっかり打ちのめされてしまった聡は、非定型うつのゲームおたくのダメ人間だ。私が思っていたよりも、聡が思っていたよりも、聡の心はずっと弱かった。
『俺は、藍美がいないと生きていけない……』
これだって、私への愛からじゃなく、聡の弱さから出てきた言葉なんだ。
わかっているのに、その言葉は壊れた耳奥で、何度もリピート再生されるし、哀れで情けない聡の姿は、瞳の裏にこびりついている。
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