フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第11話>
<11回目>
「考え過ぎっしょ、5歳の子に、そんなんわかるわけないじゃん」
「だといいけど」
「わかんないって! 野々花ちゃんは風俗もセックスも、この世に存在してることすら知らないんだよ、知ってたらコワいよ」
「ま、そうだけど」
伊織が無理したように笑った。
話題を変えよう。いつまでもこのことをグズグズと伊織に考えてほしくない。
「ねーねー、それより女としての晶子はどうなの? 最近出会いは?」
「ないない。そんな余裕ないよ、毎日」
「つっても、好きな人ぐらいいるでしょーに」
「いないってば。ショップ店員って、同僚も客も女ばっかだしね。今の生活で会う男といえば、ここのお客さんと冨永さんぐらいだよ」
「男にカウントしていただいて、ありがとうございます」
伊織がひょいと運転席を顎でしゃくり、冨永さんが冗談めかして言う。伊織の笑顔にちょっと無理がなくなった。
「んもー、そんなこと言ってる間に、おばちゃんになっちゃうよ? まだ、大丈夫、大丈夫って思ってると危ないの! 危機意識を持って恋愛しなきゃ」
「危機意識、ねぇ」
「そう、晶子は危機意識が足りないんだよ。25歳過ぎたら、あっという間なんだから!」
「それにあたし、老け顔だし?」
「そうそう」
「ひっどーい! でも、ほんとそうだよね。とはいえ、なかなか、難しいんだな。これが」
なかなか難しい。
恋愛は難しい。
あたしだってよくわかってる。
特にこの仕事をしてる女の子の場合は、ややこしい問題が普通の子の二倍にも三倍にもなってつきまとう。
話しちゃおうかな、と思った。
さっきは問題なしって言ったけど、快晴のことを。
いや、傍から見ればいたって上手くいってる二人で、問題ありというほどの大きな問題じゃないのかもしれないけれど……。
でも今、冨永さんがいるし……。
ううん、冨永さんなら別にいいんじゃない?
聞いたからって他の女の子に言いふらしたり余計なことを言ったりは絶対しない人だし。
そんなことを考えている間に車の窓の外が繁華街らしく、ギラギラしてくる。池袋のネオンは、新宿よりも、どこかチープだ。
もうすぐつきまーす、と冨永さんが声をかける。
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