フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第21話>
<21回目>
「ところで、その彼氏とは? 庇ってくれたんだから、よほどレナさんのことが好きだったんですよね、その人」
「だと思うけど。結局、別れちゃった。二年生になったら他の人が好きになっちゃったんだよね、あたしが」
「あはは、ひどいなレナさん」
「うーん、あたし、恋愛依存症だったのかも、その頃。とにかく恋をしてドキドキすることを頑張ってた。親が仲悪かったからかな」
父親は決して大きくないものの輸入雑貨の会社を経営していて、裕福な家庭だった。
雲みたいな座り心地のソファも、ホームシアターも、アンティークの棚も、なんでもある家だったけど、その家に父親はあまり帰って来なくて、外に愛人を作った。
小さい頃から何人か父親の愛人に会ったことがあって、顔は覚えてないけど、いくつかの若くてきれいでふわふわした女の輪郭と、甘ったるく「奈々子ちゃん」と呼びかける声だけが、ぼんやりしたイメージとして頭の片隅に残っている。
お嬢様育ちだった母親は、そんな父親を見限ることができず、他に自分の仕事や生き甲斐を見つけることもせず、ただただ愛する人に裏切られた苦しみからお酒に溺れ、精神を病んでいった。
閉じた母親の瞳は、自分だけに向けられていて、あたしをまともに見ようとしない。
そんな両親の元で育ったから、恋に憧れた。
早くこんな陰鬱な空気が支配する家から出て行きたくて、連れ出してくれる手を求めていた。険悪な親たちとは違う男女の関係を自分は作っていくんだと早くから決意し、早くから焦った。
両親は高校の頃に離婚し、あたしは父親に引き取られた。
母親は今も心を病みながら仕事もせず、年老いた祖母たちと実家で暮らしている。
あたしは母親を捨てた。
そのことは今でも後ろめたい。あたしをちゃんと愛してくれなかった人だけど、あたしはちゃんと母親を愛しているから。
父親の反対を押し切って高校卒業後東京に出てきてからは、ずっと母親に会っていない。会うことができない。
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