フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第23話>
<23回目>
「もしもし」
『もしもし、ごめんな、ずっと連絡できなくて』
「どうしたの?」
『いや、どうしたっていうか。おとといから忙しくて、メールも返せなかったじゃん? 奈々子、怒ってるだろうなって』
「大丈夫だよ、怒ってない。快晴が忙しいの知ってるし。仕事でしょう?」
仕事仕事、と快晴は早口で言って、仕事上の愚痴とどれだけ自分が周りから信頼されているかという自慢話をべらべら並べる。
まさかラブホにいるだろうとは思っていない様子にホッとするものの、とにかく今は一刻も早く桜介くんのところに戻りたい。
「ごめん、あたしまだ仕事してるんだ」
『はっマジかよ、こんな時間まで?』
「家に持ち帰ってやってる」
『あぁ、なるほど。そっか、奈々子も大変なんだな。お互い頑張ろう。土曜日飯食おうぜ』
「そうしよ。じゃあね」
土曜日って、そんな急な……。たしかあたし、今週の土曜日ドリームガール出勤にしてたはずなのに。予約入ってなければキャンセルにできるけど……。
そういうことをいっぺんに考えながら電話を切ると、我知らずため息が出た。彼氏からの電話なのに一気に気分が重たくなる。
ベッドルームに戻ると、桜介くんは音量を落としたテレビ画面を仕方ないように見つめていた。
海外の町を旅する番組だろう、ヨーロッパらしい町並みや海が画面いっぱいに広がっているけれど、素晴らしいはずの景色に何の魅力も感じない。
「ごめんね」
「ううん、大丈夫」
「本当にごめん」
「いいですよ、謝らなくて……。彼氏ですか?」
澄んだ瞳に何もかも見抜かれそうな気がして嘘をついても無駄だと思ったから、頷いた。桜介くんがははは、と力なく肩を揺らす。
きっと、この人はお客さんと風俗嬢の関係を超えて、本気であたしを愛し始めている。
「レナさんの彼氏さんだったら、きっと素敵な人なんだろうな」
「……桜介くんのほうが素敵だよ」
月並みな台詞でしか伝えられない、あたしの揺れる気持ち。
今までだって何度もお客さんに本気になられたことがあった。
毎週のように来てロングコースを取ってくれて、仕事として考えればいいお客さんだけれど、そういう関係って長くは続かない。
長続きするのはあくまで風俗嬢とお客さんという一線を踏み越えず、ファンがアイドルを応援するような気持ちで通ってくれる人。一方的な強い思いは客と風俗嬢の間柄では毒にしかならない。
それが風俗というもの、色恋というもの。いちいち情けをかけていたらきりがない、気持ちに応えられるわけもないんだし。わかっているはずなのに、今あたしは桜介くんとの関係が破綻することを、桜介くんと会えなくなることを、恐れている。
その後再び挑んだけれど若くてしなやかなピンクのそれはもう元気を取り戻すことはなく、少し固くなったかと思えばまたすぐぐったりしてしまって、結局二回目の射精は叶わず時間が来た。
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