フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第24話>
<24回目>
青山のこじゃれたイタリアンレストラン。そう言えば聞こえはいいけれど、レシピ本からそのまま取り出したような完璧な姿で出てきた料理は、どれも背伸びしてめいいっぱいおめかししている感じで、でも味に芯がない。
おいしいけれど、ただおいしいだけ。記憶に残りそうな味じゃない。
「うちの親さー、奈々子のこと、ベタ褒めだよ。あんなにきれいな子が嫁に来てくれるなんて信じられないってさ。奈々子、お裁縫苦手だって話してただろ? あの後、奈々子さんのために自分が縫うんだって、初心者でも作れるベビー服って本買ってきた」
「できちゃった婚でもないのに、いくらなんでも気が早すぎるよ」
運ばれてくるものを次から次へと口に運びながら、あたしたちは笑っていた。快晴といると、自分が今、目の前に並んでいるこの料理たちみたいになった気がする。
めかしこんで、見た目だけ完璧に整えて、芯がない。
自分はそんな空虚な人間じゃないと、胸にぽっと浮かんだ考えを打ち消そうとするけれど、さっきから顔の表面だけで笑ってることに気付いている。
2年付き合ってる快晴とは、仕事を通じて知り合った。
取引先の会社に勤めていて、『専務』の肩書が入っている名刺をもらった。
最初は気付かなかったけど、実は社長息子だった。幼稚舎からある私大に通い、大学院まで出た本物のエリート。そう、純粋無垢のお坊ちゃま。苦労を知らない笑顔はいたって無邪気で、でも周囲の人間いわく、仕事の時は鬼のようになるらしい。
たしかにデート中、たまにかかってくる電話に出る時、あたしと4つしか違わない快晴は、自分より年上の部下を叱りつける大人の男の顔になる。
その険しい顔に惹かれた。
自信を持って仕事をしている男は、それだけで女の目に魅力的に映る。
エリートという磨き抜かれた珠についた傷が目につくようになったのはいつからだろう。
男らしく強引と言うよりむしろ自分勝手なところ。道端で内臓を出して死んでいる猫を見つけて「気持ち悪っ」と吐き捨てる無神経さ。何不自由なく育ったせいか他人の気持ちに疎く、時に感情的。
そんな小さな傷を見つけたとき、あたしはいつも顔の表面だけの笑いで覆い隠してやり過ごした。そうしていると、空気の抜けたボールになったみたいに自分の中身が少しずつすり減っていくようだった。
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