フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第26話>
<26回目>
「奈々子はどの辺り住みたい? 俺はやっぱり港区かな、白金とか。調べたんだけど、結構いい部屋あるんだよ」
結婚して風俗を辞める、それは就職と同時にデリヘルへ籍を移す前、ソープにいた大学の頃から考えていた人生計画だった。
特にこれといった夢も才能も技術もないあたしの場合、風俗を辞める道は結婚以外思いつかない。快晴とだったら金銭的な問題もないから、パート労働に追われることもなく、今まで通りエステにも旅行にも行けるし、ブランドものだって買える。
けれど、常にできるだけたくさんの人にチヤホヤされたいというあたしの欲は、風俗を辞めたらどこへ向かうのか。
男の性欲よりもずっとどろどろしていてしつこく、女が持つその欲を、快晴一人の力で満たせるとは思えない。
「ぼうっとすんなよ」
鋭い声に我に返った。気が付けば快晴はパスタをフォークに巻き付けたまま、刺すような目であたしを見据えている。
「ごめん」
「ごめんじゃねぇよ、人が大事な話してる時に」
「ごめん……」
「奈々子は俺と一緒に住むのが嫌なのか?」
「そうじゃなくて。ね、声大きいよ」
ふたりに集中する好奇の視線にはっとした快晴は声を落とし、ごめんと短く言ってパスタを口に入れた。いきなりむき出しになった怒りが怖くて、心臓がバクバク波打っている。
雨宮建設の社長息子、雨宮快晴。付き合いたての頃、快晴は自分の名前を『雨と晴れが一緒に入ってるから、お天気屋なんだ。ったくオヤジもよくつけたよな、こんな名前』と笑っていたけれど、最近では単なる冗談に思えなくなってきた。
付き合いが長くなっていくにつれて感情の起伏が激しい人であることが判明していく。
けれども仲が深まれば深まるほど、あたしが若い頃から描いていた唯一の夢の実現である『結婚』の二文字が近づいてくる。だから、幸せを素直に喜ぼうと、不安要素を意識的に無視していたけれど……。
ひょっとしたらあたしは、ひどく間違ったことをしているんじゃないのか?
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