フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第33話>
<33回目>
そりゃそうだ、あたしの家庭事情が会社でバレるわけがない。バレるとしたら、風俗のことなんだ。
有加はこっちの質問には答えず、もっともっと楽しそうに唇の両端を持ち上げる。
「奈々子先輩、すごいですねー。全然好きでもないキモいおっさんに体触らせたり、キスしたりするんでしょ? お金のためならなんでもできちゃうとかー? ある意味尊敬ですぅ」
「ふざけんなよ!!」
有加の後頭部を鷲掴みにして、思いきり顔面を壁にたたき付けた。
鼻筋をしたたかに打ったんだろう。ガツンと骨にヒビが入ったような音がして、ぎゃっと悲鳴が上がる。
と同時に、壁に押し付けている有加の顎を伝って、赤いものが流れ落ちていく。それを見つめながら、衝動に任せて、何度も何度も同じことを繰り返す。
「売春の何が悪ィんだよ。何がどういけないのかちゃんと説明も出来ないくせに、自分が絶対的に正しくて、あたしが汚れてるみたな顔すんな。どうせあんたは、あんたらは、売春がいけないっていう世の中の当たり前を、建前を、なーんも疑わず、アホのようにそのまま信じ込んでるだけだろうが。
あんたの正義は誰かの借り物で、自分の考えじゃないんだろうが。そんな薄っぺらい人間に、人を見下す資格があると思ってんじゃねぇよ」
「……別に悪いなんて言ってないし」
今にも死にそうな声で言う有加を見ていたら、急にアホらしくなって手を離した。
糸が切れた操り人形のようにへなへなと有加がトイレの床に崩れ落ちる。
化粧で完全武装した顔が、まるでB級ホラー映画のワンシーンみたいになっていた。ほんとに、鼻の骨が折れたかもしれない。
個室を出ると、部署内の女たちと目が合った。
手洗い場の前に、ぞろぞろと6人も集まってる。同期だけでなく、先輩や後輩、木崎もいた。
あたしを見るなり、みんなは一斉に怯えた顔になった。かと思えば、すぐに慌ててあたしから視線を逸らす。
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