フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第34話>
<34回目>
気まずい空気を打ち破るかのように、同期の女が突然、駆け出した。
「有加ちゃん、大丈夫!?」
咎められることも罵倒すらもされず、あたしは無視された。
6人が個室で倒れてる有加の元に走り寄り、「大丈夫?」とか、「血を止めなきゃ」とか、「いや、病院だ。救急車を呼ばなければ」だとか言い合ってる。
あたしは、胸の中に生じた暗い穴が無限大に広がっていくような感覚を振り払いたくて、速足でトイレを出た。
トイレの前にはさらに大きな人だかりができている。
この前まではあたしを可愛がってくれたおじさん社員も、いつか食事に誘ってきた若い男性社員も、今はあたしと目を合わそうとしない。
一度だけ彼らを睨みつけてから歩き出す。
どこへ向かって? どこにも目的地はない。
もうこの会社のどこにも、あたしが居られるところはない。
有加に言ったように、本当の自分の考えを持っていない薄っぺらい人間が大嫌いだ。
でも、世の中にいるのは、ほとんどそういう人たちだ。
そして、あたしが彼らを軽蔑するのと同じか、いやそれ以上の強さで、あたしは彼らから軽蔑されている。
別にあたしと関わりのない人間が、「風俗は最低だ」とか「売春する女は地獄に堕ちろ」とか、そう思ってたって、全然平気だった。
だけど、認めよう。
あたしは寂しい。あたしは孤独だ。
ほんとはチヤホヤしてほしいのに、世の中すべての人間に惜しみなく肯定してほしいのに、風俗嬢のあたしは忌み嫌われるだけ。
あたしを肯定してくれるのはお客さんぐらい。
そのお客さんだって、あたしの顔や体や、あくまで表面のみを一時的に愛してくれるだけで、心の奥では世の中一般の人と同じだ。風俗嬢なんてとせせら笑ってる。
あたしが本当に欲しいものは、体を売ったからって手に入らない。
ニセモノでごまかしてるだけ。
そんなことは、とうに知っていた。
でも、風俗を辞めてしまったら、若さと美貌以外の取り柄を持たないあたしは、誰にどう肯定してもらえるのか?
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。