フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第14話>
<第14回目>
小さな町だから、ドーナツ屋さんは駅前にひとつしかなくて、しかもうちの高校の制服でいっぱいだったけれど、知ってる人はいなかった。
朋子の今カレの話とか沙紀の元カレの話とかでひとしきり盛り上がった後、授業が始まる時間になったので、4人で同じ塾に向かう。
小さな町には塾も多くない。わたしたちが通ってるところと、江口くんが通ってるところ、あとのひとつには長谷部くんが通っている。つまり3つだけ。
長谷部くんと同じ塾にすればよかったって気づいたのは、みんなと一緒に入校を決めた後だった。
21時になってすべての授業が終わり、家に帰りつく。自分の部屋に直行しようと階段の一段目に足をかけた時だった。
「千幸、ちょっとリビングに来なさい」
お父さんが背中から声をかけてくる。寡黙でどちらかっていうと考え方の古い人だけど、今日はいつにも増しておでこの皴が深くて、静かに怒った顔をしている。
ごくんと唾を飲み下してから、素直に頷く。いつかはこの時が来るってわかってたけど、もうちょっと先だと思ってたのに……。覚悟ができてないままお父さんの後に続く。
リビングのこたつテーブルにはお母さんとお姉ちゃんが向かい合っていて、わたしはお姉ちゃんの横、お父さんはお母さんの横に座った。真正面にお父さんのこわばった顔があって俯く。
テーブルの上には白い封筒とその中身、この前受けた模試の結果通知だ。
予想通りの展開にうなだれていると、お姉ちゃんが封筒をわたしの前に押しやる。
「どういうことなのよ。これ、あんたが受けるはずの短大が第三希望じゃない、あとは東京の大学ばっか! 東京に行きたいなんて、わたしもお父さんたちも一言も聞いてないよ!?」
短大を卒業して社会人になって4年目、駅前の紳士服店で働いてるお姉ちゃんは、事あるごとに姉というよりもお母さんの顔をする。6才も歳が離れていると、自然とそういう力関係になる。
「お母さん、びっくりしちゃったわよ。東京に行きたいなんてちっとも聞いてないんだから。なんでこんなに大事なこと、どうして、お父さんにもお母さんにもお姉ちゃんにも相談しないの?」
「あんたはまだ子どもだからよく分かってないだろうけどねぇ、地元の短大と東京の私大じゃかかる額が全然違うの! 一人暮らしだってしなきゃいけないんだし。親にそのお金出してもらうんだから、まずは親に相談するのがスジでしょうが!!」
希望校の欄にその大学名を書いた時から、反対されるのはわかってた。
何を言われても真正面から戦うつもりだった。でも、斜め前からはお母さん、隣からはお姉ちゃんに責められて、戦意がたちまち喪失していく。
戦うも何も、わたしがやろうとしていることは、こんなにも許されないことだったんだ。
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