フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第18話>
<18回目>
わたしの沈黙を納得と勘違いしたのか、冨永さんがハンドルを握ってないほうの手をぶんぶん振る。
「いえ、すいません、冗談です。果たし状じゃないです」
「ほんとは何なんですか?」
「脚本」
「えっ!? 冨永さんって脚本家だったんですか!?」
「そんな大層なものではないですが、いくつかの劇団で時々書いてますね。少ないけれど、ギャラもらって」
「へぇー……」
ほんとにそんな大層じゃないんです、と念を押すように言う。
なんとなくわかった。この人の独特の空気感は、脚本とか劇団とか、そういうところから来ていたんだ。まぁ、こんなトシになってまでこんな仕事をして脚本なんか書いてる男の人なんて、ろくなものじゃないけれど。
でも、人のことは言えないか。もう三十路の足音が聞こえ始めているわたしだって、かなりろくなものじゃない。
18歳で東京に出てきて、短大に入って、半年で短大を辞めて、仕事を転々としてきた。
風俗と昼間の仕事を兼業したり、風俗専業だったり……。今は半年前に事務の仕事を辞めてから、ドリームガール1本。
最近は昼間の仕事を探すこともやめている。最近やる気が出ない。昼間の仕事が見つかったって、いくらでも代わりの効くもので、何のキャリアも積めなくて、先が見えない。
それじゃあ風俗と変わらないし、それでいて風俗よりもずっとお給料は安い。
こんな生活、あとどれくらい続けられるんだろう?
この前ニュースでやってたけれど、近頃は30歳代で生活保護をもらう独身女性も多いという。
結婚もせず、仕事で成功もできなかった人が、歳を取ってからクビを切られる……。風俗だって一緒だ。借金を抱えたりホストにハマったりして入ってくる女の子ばかりじゃない。
わたしみたいに生活苦が原因でこの業界に入ってきて、抜け出すために何の努力もせず風俗だけやり続けた結果、40歳を前にして、ある日突然『悪いけど……』って、店からの解雇宣告。
歳を取ってしまって他に行き場がない風俗嬢の受け入れ先として、人妻店があるけれど、ドリームガール以上に過激なオプションが山ほどあるし、それでいてお給料もすごく安いらしい。
昼間も働いたって夜だけ働いたってその先に待っているのが同じ暗黒なら、頑張る意味なんてあるのかと思ってしまう。
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