フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第39話>
<39回目>
「江口くんは、加恋ちゃんが好きなの? なのになんで、わたしと?」
「俺が加恋ちゃんのことを見てた時、柿本も同じものを見てたから。それで柿本のこと、気にするようになった」
こっちを向いて江口くんはバツが悪そうに笑った。呼び方が千幸ちゃんから柿本に戻っている。
頬がかあっと熱くなる。
最初から全部、江口くんにはお見通しだったんだ。江口くんが加恋ちゃんを見てた時わたしも加恋ちゃんの隣の長谷部くんを見てたこと、本当は長谷部くんが好きなのに思いを忘れるために江口くんと付き合ってたこと。
江口くんはわたしの最悪さにちゃんと、気付いてた。
「でも、信じてほしい」
江口くんが身を乗り出す。初めて正面からまじまじ見た江口くんの体は、日焼けしてどこもかしこも黒かった。
「俺、柿本と付き合うって決めたからには、ちゃんと柿本のこと大切にするよ。なんでも相談してとか言ったの、嘘じゃないし」
「そういうの、いい」
泣きそうな声になっていた。
伸びてきた手を乱暴に振り払う。急いで服を身に着ける。
「江口くんの勝手な気持ち、押し付けないで。わたしには無理」
「現実を見ろよ、柿本。あの2人が別れることなんかないって」
「現実なんか、見たくないっ」
最後に江口くんに言ったのは、捨て台詞にもならないような言葉。
最後に見た江口くんの目には、ちゃんとわたしが映っていた。
江口くんの言ってることはよくわかる。長い片思いに疲れたわたしを心配してくれているのも、わたしを大切にする、それが本心から出た言葉だってことも。
だからこそ、江口くんと向き合うことすら拒んだわたしにこれからも付き合い続ける権利はない。
マンションの外廊下に出ると、冬の始まりの冷たい風が頬をひんやり撫で、熱くなっていた心と体が急激に冷めていく。江口くんに愛撫されながら、もっとずっと触ってほしいと濡れて求めた自分の身体が呪わしい。
長谷部くんじゃなくたって誰でもいいのか。自分自身への嫌悪感が、芽生え始めの性欲を押さえつけた。強く暗い感情は、時に本能さえねじ伏せる。
どこかで期待していた。処女を捨てれば、すべてが上手くいくって。
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