泡のように消えていく…第三章~Amane~<第2話>
<第2話>
何種類もの使いかけの歯磨き粉や洗顔フォームが所狭しと置いてある、乱雑な洗面所に入る。
ばしゃばしゃ……。
乱暴に顔を洗って鏡の中の自分と向き合った時、ふわりと蜘蛛が顔の横を横切っていくのが見えた気がして、ドキッとした。そんなもの本当にあるわけないって、わかってるのに。
悪夢を見た後はいつでもそうであるように、鏡の中の女はひどい顔をしている。
9月に26歳になったけど、いつも若く見られるから、お店年齢は未だに22歳。昔から忌み嫌っている童顔が、今この瞬間は異様に老けていた。顔色は悪いしクマができているし、頬もハリを失ってしぼんでいる。
あたしはきっと老けるスピードも速いし、長生きはできないんだろう。既に使ってないにせよ、長い期間どっぷり浸かっていたエスのせいで、体の中にはたっぷり毒が溜まってるはずだから……。
禁断症状からくる恐ろしい幻覚からは解放されたけれど、今でも夢の世界には時々、そこにいるはずもない蜘蛛たちが登場する。
この恐怖から逃れられる日は一生こないと思う。
一時の快楽の代償はあまりに大きすぎて、死ぬまで影のようにしつこくつきまとうのだ。
「そのケガ、どうしたの?」
即尺サービスの後、一緒にお風呂に入っていると、客が遠慮がちに聞いてくる。
あたしのお尻の上から背中の真ん中らへんにかけては、赤茶色の生々しいやけどの跡がくっきり刻まれている。何十匹もののミミズが絡み合いながら皮膚の上を這いずり回ってるみたいな形をしていて、我ながら気持ち悪い。
処置が遅かったせいで、医者にはあんまりきれいには治らないよと最初に言われたっけ。
もちろん誰にも見せたくないけど、12才から体を売っているあたしには今さら常識と規律に縛られた一般社会に戻るエネルギーはなく、この仕事をしている以上傷を見られることは仕方ない。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。