フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第43話>

2014-05-22 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,070 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Nanako フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<43回目>

 

「ったく信じられねぇな、俺と付き合った時には、もう風俗嬢だったんだろう!? 何がレナだよ、ナンバーワンだよ、ちっとも気づかない俺見て、こいつバカだなって笑ってやがったな!!」

 

全身の痛みに耐えられず、床に蹲ると、髪の毛を掴んで顔を持ち上げられ、右から左から平手を浴びせられる。

 

気分屋で感情に波がありがちだとは思ってたけれど、ここまで我を忘れられる人だったなんて。

 

あたしは、事あるごとに表面だけの笑顔でごまかしてきて、ほんとの自分なんて全然見せようとしなくて、でも快晴のこともまったくと言っていいほど知らなかった。

 

2年も付き合って、あたしはこの人のどこを見ていたんだろう?

このままじゃ殺される。

 

理性じゃなくて本能が警告して、床に転がってるウイスキーの瓶を手に取った。

 

殴ることに夢中な快晴は気づかない。

 

一気に持ち上げ、振り下ろした。

 

ずん、とたしかにヒットした感覚がある。低いうめき声がした。

 

顎を抑えて悶絶する快晴を見ないようにして、バッグとコートをひっつかみ、部屋を出た。

 

恐ろしさでガタガタ震えて、ハイヒールを履くのに少し苦労した。

 

快晴は追いかけてこない、でもこれから追ってくるかもしれない。エレベーターがたまたま同じ階に停まっていて、普段はあんまり信じてない神様に心から感謝した。

 

『閉』ボタンを押して、ようやく安心感が体のすみずみまで染みわたっていく。

 

タクシーを拾うため大通りに出たけどなかなか捕まらない。

 

諦めて歩くことにした。

 

楽しげなクリスマスソングがかかり、枯れ葉が足もとで踊る冬の町。行きかう人たち、みんながあたしのことを見ている。

 

男の視線には慣れてるけど、今日はいつもと全然違う種類の目に晒されていた。

 

ショーウインドウの前で立ち止まって確認すると、「こりゃひどい」と思わず独り言を漏らしてしまう。頬も口の端も額も切れて目の周りは青あざ。

 

——この前の有加の顔も、B級ホラー映画みたいでひどかったけど、これじゃあ、まるで、B級グロ映画じゃないの。悪いことって自分に返ってくるんだなぁ。

 

冷静に思ったら笑えてきて、ショーウインドウの中の不気味な女がもっと不気味な顔になった。

 

 

 




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