フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第43話>
<43回目>
「ったく信じられねぇな、俺と付き合った時には、もう風俗嬢だったんだろう!? 何がレナだよ、ナンバーワンだよ、ちっとも気づかない俺見て、こいつバカだなって笑ってやがったな!!」
全身の痛みに耐えられず、床に蹲ると、髪の毛を掴んで顔を持ち上げられ、右から左から平手を浴びせられる。
気分屋で感情に波がありがちだとは思ってたけれど、ここまで我を忘れられる人だったなんて。
あたしは、事あるごとに表面だけの笑顔でごまかしてきて、ほんとの自分なんて全然見せようとしなくて、でも快晴のこともまったくと言っていいほど知らなかった。
2年も付き合って、あたしはこの人のどこを見ていたんだろう?
このままじゃ殺される。
理性じゃなくて本能が警告して、床に転がってるウイスキーの瓶を手に取った。
殴ることに夢中な快晴は気づかない。
一気に持ち上げ、振り下ろした。
ずん、とたしかにヒットした感覚がある。低いうめき声がした。
顎を抑えて悶絶する快晴を見ないようにして、バッグとコートをひっつかみ、部屋を出た。
恐ろしさでガタガタ震えて、ハイヒールを履くのに少し苦労した。
快晴は追いかけてこない、でもこれから追ってくるかもしれない。エレベーターがたまたま同じ階に停まっていて、普段はあんまり信じてない神様に心から感謝した。
『閉』ボタンを押して、ようやく安心感が体のすみずみまで染みわたっていく。
タクシーを拾うため大通りに出たけどなかなか捕まらない。
諦めて歩くことにした。
楽しげなクリスマスソングがかかり、枯れ葉が足もとで踊る冬の町。行きかう人たち、みんながあたしのことを見ている。
男の視線には慣れてるけど、今日はいつもと全然違う種類の目に晒されていた。
ショーウインドウの前で立ち止まって確認すると、「こりゃひどい」と思わず独り言を漏らしてしまう。頬も口の端も額も切れて目の周りは青あざ。
——この前の有加の顔も、B級ホラー映画みたいでひどかったけど、これじゃあ、まるで、B級グロ映画じゃないの。悪いことって自分に返ってくるんだなぁ。
冷静に思ったら笑えてきて、ショーウインドウの中の不気味な女がもっと不気味な顔になった。
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