フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第38話>
<38回目>
痛いだけのわたしとは違って、江口くんのほうはどうしようもない興奮と快感を覚えていたらしく、すべて埋め込んだ後は大きく息を吐きながら出入りさせる。
最初はそっと、少しずつ速く。傷口をかき回される痛みに必死で耐えながら、薄目を開けてわたしの体を味わう江口くんを見ていた。
うっとり細まった目、ほんのり上気した頬。男の人って、こういう時こういう顔するんだ。
「千幸……ちゃん」
初めて下の名前で呼ばれた。
呼び慣れてないせいか、少し固い声。
わたしも下の名前で呼び返したかったけど、江口くんの下の名前を忘れてしまったことに気づいた。セックスまでしてるのに……。
自分の最悪さが、初めての体験で高ぶった心の熱を冷ましていく。
「千幸ちゃん……、気持ちいい……」
「うん……」
「あ、千幸ちゃん、だめ、出そう」
無理して呼ばれてるような、わたしの名前。
そこは相変わらず痛い。上にある江口くんの顔は快感にとろけている。
インサートされたまま急に冷静になる。いったいわたしは何をやっているんだろう?
我を忘れた江口くんの動きがにわかに速くなり、わたしは加速度化する痛みに耐えきれず声を上げ、江口くんがわたしの腰を抱えて射精するその瞬間、信じられないひと言を聞き取った。
「かれんちゃん」
最高の瞬間に、江口くんはかすれた声で、たしかにそう言った。
終わった後、江口くんがあんまり普通の様子で体液にまみれたそこを処理し、わたしにもホイとティッシュを差し出すので、今のは聞き間違いなんじゃないかと思った。
でも外したコンドームの口を縛る手がかすかに震えている。
「かれんちゃんって、長谷部くんと付き合ってる、2年生の、あの?」
冷静に考えられなかったから、いきなり核心を突いていた。ベッドサイドのゴミ箱にティッシュの塊を投げ入れた途端、江口くんの動きが止まる。
最後まで向き合えなかったくせに、抱きしめられている間でさえこれが長谷部くんとだったらと思ってたくせに、えぐられたような胸の痛みで呼吸が浅く速くなる。
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