泡のように消えていく…第三章~Amane~<第4話>
<第4回> 「お客さんはSですかー? Mですかー?」 「僕はMなんだよね。いや、そんな傷が残るようなことは、ちょっと無理だけど」 ソープに来る人はだいたい、本番をしたい人か、受け身になって徹底的に女の子にサービスされたい人のどっちかだ。 ソープとM性感の客はかぶることも多いらしく、女の子を責めたい時はヘルス、ヤラれたい時はソープと使い合わせる人も中にはいるという。 あたしはMの男なんて全然好きじゃないのに、なぜかMの客からよく指名されてしまう。 「オナニーするとこ見て下さい」 ベッドに移るなり客は仰向けになってカエルみたいに足を開き、そそり立ったペニスを勢いよくしごき出した。真っ赤でつるんとしたペニスはトマトの表面みたい。にしても、ソープに来といて自分でヤリ出すって……。 内心呆れながらベッドの上に立ち、女王様風に見下ろして足先で顔をツンツン突つくと、さっきまで紳士然としていた客は、あられもない姿であんあん呻き出した。 「もっと早く手ぇ動かせよ。できんだろ」 「はい。あぁ、雨音さんきれい。めちゃくちゃきれい。雨音さんの足舐めたい」 「えー、どうしよっかなぁ」 「お願いします、なんでも言うこと聞きますから」 「ほんとに、なんでも?」 「なんでも聞きます、だからお願いします、ちょっとでいいから、舐めさせて」 たっぷりじらした後足先を口もとに持っていくと、客は3日間エサをもらえなかった猫が牛乳の皿に飛びつくような勢いで、ぺろぺろ舐め回した。客の口の中はあったかくてぬるぬるしている。 あーあ、あたし何やってんだろ。 精いっぱいの演技をしながら客に組み敷かれあんあん言ってるより、こういう女王様まがいの接客のほうがしんどい。あくびが出そうだ。 よくSっぽく見られるが、あたしにSの気は全然ない。言うことをなんでも聞いてくれるMの客と接していても優越感や高揚感を覚えることはないし、Mの客特有の足を舐めたいだの唾が欲しいだのの性癖がマジで気持ち悪い。Sどころかむしろ、あたしは好きな男からは罵られたいタチなのだ。 クソアマだの淫乱女だの雌豚だの、口汚く罵られ罵倒されて、あぁこの人は自分のことをわかってくれるんだなと安心してしまう。その代わり、Mの客がするように無条件に肯定されても、きれいだとか可愛いだとかいう言葉はあまりに嘘っぽくて安っぽくて、いい加減なこと言うなと蹴り飛ばしたくなる。あたしはどうしようもないMで、どうしようもなく歪んでいる。
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